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『コスモス』は、アメリカの天文学者、カール・セーガンが監修し、自らナビゲータとして進行を担当した、宇宙と生命をテーマとする、全13回のドキュメンタリー科学番組である。日本で初めてテレビ放送されたのは、1980年のことであるが、2000年に7枚組みのDVDが発売されたので、それを見て思いついたことを7回にわたって書いてみたい。
百億の星と千億の生命 (新潮文庫)
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0. COSMOS(宇宙)について
この番組が日本で放送されたのは、私が中学3年生のときであるが、当時、私はテレビを一切見ないことにしていたので、この番組を見るのは、今回(2007年)が初めてである。アマゾンのレビューから判断すると、このDVDを買っているのは、子供の頃見た番組をもう一度みたいという中年の人たちのようだ。当時は画期的だったこの番組の視覚効果も、今の目が肥えた子供たちには物足りないだろうし、アップデートされているとはいえ、内容も古い。子供が夢を膨らませて見る番組というよりも、大人が昔を懐かしんで見るコレクションというところだ。
冷戦時代、少年たちは宇宙旅行や宇宙開発を夢見た。宇宙は未来の代名詞だったのだ。今振り返れば、1989年に出版され、ベストセラーになった『ホーキング、宇宙を語る』が最後の宇宙ブームだった。冷戦終結後、米国は宇宙開発の予算を削減し、人々の宇宙への関心は急速に冷えていった。宇宙産業に代わって、近未来の花形産業として注目を浴びるようになったのは、IT産業である。カール・セーガンは、冷戦が終わって、平和になると、宇宙開発が進むと考えていたようだが、実際にはそうではなかった。人類のフロンティアは、宇宙空間ではなくて、インターネットのバーチャル空間である。SFの異人の定番は、宇宙人ではなくて、バーチャル空間の人工生命である(例えば『マトリックス 』などがそうだ)。このあたりに、時代の流れを感じる。
1. エラトステネス
エラトステネスの肖像 [HHU Dusseldorf:
Eratosthenes ]
カール・セーガンは、アレキサンドリア図書館を世界最初の科学研究所と位置付け、館長にして優れた天文学者であったエラトステネス(上図)を紹介する。エラトステネスは、ナイル川上流に位置するシエネでは、夏至の日に太陽光が井戸の底まで届くという情報を本の中に見つけ、この情報とアレキサンドリアからシエネまでの距離と、アレキサンドリアの夏至の日の南中高度から、地球の全周の大きさを求めた。エラトステネスは、これ以外にも、地球と太陽および地球と月の距離や黄道の傾斜角などを求めたと言われる。この成果は、古代ギリシャの幾何学と古代エジプトの天文学が融合した結果で、エラトステネスは、ヘレニズム文化の体現者だった。なぜこうした古代の高度な科学が中世のヨーロッパでは忘れられたかが問われなければならない。
COSMOSのDVDと本
書名 Cosmos 媒体 ペーパーバック 著者 Carl Sagan 出版社と出版時期 Abacus, 1983/08/11
『コスモス』は、アメリカの天文学者、カール・セーガンが監修し、自らナビゲータとして進行を担当した、宇宙と生命をテーマとする、全13回のドキュメンタリー科学番組である。日本で初めてテレビ放送されたのは、1980年のことであるが、2000年に7枚組みのDVDが発売されたので、それを見て思いついたことを7回にわたって書いてみたい。
2. ヘイケガニ
冒頭で、甲羅の模様が、侍の顔に見えるヘイケガニの話が、人為選択による進化の例として取り上げられている。人為的選択による説明には、異論もあるようだが、網にかかったヘイケガニを海に戻してやったことで、ヘイケガニの生存はいくらか有利になったことだろう。ところで、ヘイケガニを畏怖する日本の怨霊信仰はなぜ淘汰されなかったのだろうか。怨霊による報復を恐れて、殺すべき敵を殺さない社会は、大陸では淘汰されるだろうが、天然の要害である日本列島では、温存されやすいということが考えられる。
3. 近代における占星術から天文学への移行
6世紀のユダヤ教会のモザイク歩道に描かれた十二宮一覧図。
[NASA:
The
Jewish Calender ]
古代の宇宙についての認識は、占星術と切り離せなかったが、ヨハネス・ケプラーは、天文学を近代科学として独立させる上で、大きな功績を残した。今日、科学者は、占星術を非科学的迷信として全面的に拒否しているが、地球上の生命が、宇宙での変動から大きな影響を受けていることを考えるならば、天文学的観察から文明の盛衰を予測するという試み事態は決して荒唐無稽とはいえない。にもかかわらず、占星術が軽蔑されているのは、人間が、かつてのように自然の変動に歩調を合わせる非自立的な存在から、自然を逆に支配する自立的な存在へと変貌したという自負があるからだろう。
COSMOSのDVDと本
書名 Cosmos 媒体 ペーパーバック 著者 Carl Sagan 出版社と出版時期 Abacus, 1983/08/11
『コスモス』は、アメリカの天文学者、カール・セーガンが監修し、自らナビゲータとして進行を担当した、宇宙と生命をテーマとする、全13回のドキュメンタリー科学番組である。日本で初めてテレビ放送されたのは、1980年のことであるが、2000年に7枚組みのDVDが発売されたので、それを見て思いついたことを7回にわたって書いてみたい。
4. 金星における温室効果ガス
パイオニアが紫外線で撮影した金星の映像 [NASA:
Venus ]
第四回目のタイトルは「天国と地獄」だが、天国とは地球で、地獄とは金星のことである。金星は、上の写真からも窺い知ることができるように、厚い大気で覆われている。金星の大気圧はきわめて高く、膨大な量の二酸化炭素の温室効果により、地表温度は400℃以上になる。他方で、火星の大気圧は、地球の1%未満で、温室効果が極めて弱く、地表温度は平均で-40℃以下になる。金星と火星は、温暖化と寒冷化が進むと地球がどうなるかを暗示している反面教師である。カール・セーガンは、温室効果ガスの上昇によって地球が温暖化するというリスクと、砂漠化で地球のアルベドが上昇することによる寒冷化のリスクの二つを取り上げ、地球が将来金星や火星のようになるかもしれないと警告した。これは『コスモス』が放送された当時、地球温暖化への警告と地球寒冷化への警告の二つが混在していた気象学の状況を反映している。
5. 火星人とは誰のことか
火星人は、かつて、SF小説の定番のテーマだった。特にイギリスの作家、H・G・ウェルズが、1898年に発表した『宇宙戦争』(原題:The
War of the Worlds)は、そうした小説の古典である。この小説では、地球人よりも知性が高いが、冷酷な火星人が、地球を植民地にしようと、イギリスを襲撃し、侵略するのだが、言うまでもなく、これは当時のイギリス人が、他の民族に対して行っていたことだった。結局のところ、この火星人とは、イギリス人が火星という異界に投射した鏡像的他者であり、自分自身である。カール・セーガンは、番組の最後で、火星を地球と同じ環境へと作り変えるテラフォーム計画を紹介し、火星人は、地球人ということになるだろうと言っているが、これは別の意味で正しい。
H.
G. Wells の小説 The War of the Worlds 初版の表紙
[
Especial H. G. Wells ]
上の絵は、『宇宙戦争』初版の表紙の絵であるが、火星人と言えば、ここに描かれているようなタコのような形でイメージされることが慣例となった。なぜ火星人は、タコのような形でイメージされるかと言えば、それは、人間が将来そういうように進化するだろうと人間が想像しているからである。肉体労働をしなくなり、頭脳ばかりを用いる結果、首から下が退化し、脳と目だけが大きくなるだろう。宇宙人にはいろいろなバージョンがあるが、多くは、未来の人間の自画像である。
カール・セーガンは、『宇宙戦争』が、それ以前の空想のマイナー・ヴァージョンではなくて、革命的な産物と言っていたが、私はそうは思わない。異界を火星に求めたり、ハイテク兵器が登場するあたりは、確かに新しいが、基本的な構図は、過去に存在した神話的空想と大きく変わるわけではない。宇宙人やUFOの本質を知る上で重要なのは、天文学や宇宙生物学ではなくて、神話学や心理学である。
COSMOSのDVDと本
書名 Cosmos 媒体 ペーパーバック 著者 Carl Sagan 出版社と出版時期 Abacus, 1983/08/11
『コスモス』は、アメリカの天文学者、カール・セーガンが監修し、自らナビゲータとして進行を担当した、宇宙と生命をテーマとする、全13回のドキュメンタリー科学番組である。日本で初めてテレビ放送されたのは、1980年のことであるが、2000年に7枚組みのDVDが発売されたので、それを見て思いついたことを7回にわたって書いてみたい。
6. 大航海時代と宇宙開発時代
クリスティアーン・ホイヘンス(1629年-1695年)[
Christiaan
Huygens ] 望遠鏡を製作し、土星の輪や土星の衛星を発見した。ホイヘンスは、他の惑星にも、地球と同じ生物がいると信じていた。
17世紀から18世紀にかけての大航海時代に、オランダは、世界の海を支配する覇権国家となった。この時代はオランダの黄金時代で、ホイヘンス(上図)、スピノザ、グローティウス、ルーベンス、レンブラント、フェルメールなど、優れた学者や芸術家が現れた。セーガンは、オランダの繁栄を、異端に対して寛容な政治風土に求めている。
オランダは、世界各地に植民地を築いたが、利益を上げないうちにその大半を次の覇権国家であるイギリスに奪われてしまった。その結果、英語が世界の標準語となった。カール・セーガンは、惑星探査機ボイジャーの名前にかこつけて、大航海時代を現代の宇宙開発時代に喩えているのだが、米国も、利益を上げないうちに、宇宙開発の成果を次の覇権国家に奪われるかもしれない。
もしも多くの人が予想するように、次の覇権国家が中国となるならば、さらに、中国がテラフォーミング(惑星の地球化改造)に成功して、過剰な人口を他の惑星に移住させるならば、中国語が宇宙の標準語となるだろう。日本人がイニシャティブを握れば、日本語が宇宙の標準語になるかもしれない。
7. 経験主義と理想主義
セーガンは、ミレトス学派の自然哲学を、宗教的権威に依存しない自然の説明として、なかんずく、デモクリトスの原子論を、最初の科学的アプローチとして高く評価する。哲学の世界では、デモクリトスのようなソクラテス以前の自然哲学は、プラトン・アリストテレスの前座として軽く見られる傾向があるのだが、セーガンのような自然科学者は、逆の評価をする。
ミレトスは、既存宗教の支配力が強いギリシャ本土から遠く離れた植民地だったので、自由な思想が発達しやすかった。また、交易が活発だったために、知的刺激にも欠かなかった。これが、非宗教的な自然哲学が花開いた原因と考えられている。
自然哲学者は、経験を重視し、実験を行ったが、プラトンは、経験を軽蔑し、イデアの世界に閉じこもった。プラトンの哲学はその後キリスト教によって受け継がれ、科学者にとっては暗黒の時代が続くことになる。プラトンのイデア論は、肉体労働を奴隷にさせる特権階級の思想であり、自ら技術者として肉体労働を行ったミレトス学派の自然哲学者とは異なって、人類の進歩を妨げたとセーガンは言う。
プラトンの哲学のような経験的多様性を無視する理想主義は、学問的には神秘主義的独断論を、政治的には全体主義的独裁制を帰結する。カール・ポッパーは、プラトンの哲学を悪しき全体主義の源泉と位置付けていたが、健全な学問にとって必要なのは、経験を重視した理論であり、健全な政治にとって必要なのは、個の利益を重視した全体の利益である。
COSMOSのDVDと本
書名 Cosmos 媒体 ペーパーバック 著者 Carl Sagan 出版社と出版時期 Abacus, 1983/08/11
『コスモス』は、アメリカの天文学者、カール・セーガンが監修し、自らナビゲータとして進行を担当した、宇宙と生命をテーマとする、全13回のドキュメンタリー科学番組である。日本で初めてテレビ放送されたのは、1980年のことであるが、2000年に7枚組みのDVDが発売されたので、それを見て思いついたことを7回にわたって書いてみたい。
8. 恒星間航行
太陽系内での宇宙旅行なら、既存の宇宙船で問題はないが、恒星間航行となると強力な動力源が必要になる。米国は、1958年から、核パルスによって推進される宇宙船を開発するオリオン計画
(Project Orion)を始めた。英国惑星間協会(British Interplanetary Society)は、1973-1978年にかけて、核融合で推進される宇宙船を開発するダイダロス計画
(Project Daedalus) を立てていた。だが、どれも、他の恒星にまで航行するのに時間がかかりすぎる。そこで、カール・セーガンは、ワームホールの通過によるワープを提案していたが、仮にそれが理論的に可能でも、技術的には非常に難しいだろう。
9. 宇宙の死と人類の未来
ビッグクランチ理論によれば、宇宙は、将来、無限に収縮して終焉を迎える。[
Big
crunch ]
生命は、地球に誕生して以来、38億年間のうちに、様々な種への分岐し、進化してきた。進化は今後も続くだろうし、人間も、絶滅せずに、新たな進化を遂げるかもしれない。だが、生命は永遠に続くのだろうか。いつかすべて絶滅する日が来るのだろうか。
ビッグバンで生成した宇宙は、ビッグクランチによって終焉するという説がある。他方で、宇宙は今後も膨張し続け、終焉を迎えることはないとする説もある。熱力学第二法則によれば、孤立系である宇宙のエントロピーが減ることはない。だから、従来、宇宙は最後にはいかなる仕事をも取り出すことが不可能な熱死を迎えると考えられてきた。
だが、エントロピーが最大になる以上のスピードで宇宙が膨張しているから、熱死状態になることはないという説もある。比喩を用いるならば、人間が生活していると部屋はどんどん汚くなるが、汚くなる以上のスピードで、新しい部屋ができるならば、いつまでたっても部屋が汚くなりきることはないといったところだ。ビッグクランチにしても熱死にしても、はるか未来のことだから、心配することは何もないのだが、宇宙と生命に終わりがない方が、未来に期待が持てる。
COSMOSのDVDと本
書名 Cosmos 媒体 ペーパーバック 著者 Carl Sagan 出版社と出版時期 Abacus, 1983/08/11
『コスモス』は、アメリカの天文学者、カール・セーガンが監修し、自らナビゲータとして進行を担当した、宇宙と生命をテーマとする、全13回のドキュメンタリー科学番組である。日本で初めてテレビ放送されたのは、1980年のことであるが、2000年に7枚組みのDVDが発売されたので、それを見て思いついたことを7回にわたって書いてみたい。
10. 宇宙観の脱中心化
ロサンゼルス郊外のウィルソン山天文台の100インチフッカー望遠鏡。[
Andrew
Dunn (1989)
100
inch Hooker ]
エドウィン・ハッブルとミルトン・ヒューメイソンは、ウィルソン山天文台の100インチフッカー望遠鏡(上の写真)で銀河の赤方偏移を測定し、宇宙膨張を発見した。地球から遠ざかる銀河から来る光は、ドップラー効果により、赤方に偏移するのだが、赤方偏移の量は、遠方の銀河ほど大きいことがわかった。ヒューメイソンは、地球を中心に宇宙が膨張していると考えたが、現代の科学者は、宇宙のどの地点で観測しても、同じ現象が見られると考えている。
銀河をレーズンに喩えると、パンが膨らむにつれて、どのレーズンから見ても、他のレーズンが離れていくように見える。また、遠くにあるレーズンほど遠くへと離れることがわかる。だが、レーズンパンモデルだと、中心に位置するレーズンと縁に位置するレーズンの違いが出てくるので、真に、各銀河を脱中心化したとはいえない。宇宙に三次元的な縁がないことを示すためには、四次元モデルが必要である。球の表面上に位置する点は、球が膨張するとき、相互に離れていくが、どの点も特異点ではないし、二次元的に縁があるわけでもない。
人間は、地球が太陽系の中心ではなく、太陽系は銀河系の中心ではなく、そしてこの銀河系は宇宙の中心でないことを認識するようになった。人間の知的進歩は、人間が特殊な存在ではないということを明らかにしている。むしろ、人間の宇宙における特殊地位は、人間が宇宙において特殊地位を持たないことを認識している点にある。
11. 情報エントロピーの増大としての汚染
クジラは、海中で音波によるコミュニケーションを行っている。人間が大規模に進出するまでは、大洋は静かで、クジラが発する音声は、15000キロメートル先まで届いた。だが、人間が海洋上を頻繁に往来するようになると、船のスクリュー音やソナーが撹乱要因となって、音声は数百キロメートルにまでしか届かないようになった。
人間が海を喧しくしたおかげで、クジラの繁殖のためのコミュニケーションが妨げられるようになった。人間による物質的な海洋汚染のみならず、ノイズ汚染までもが、クジラの生態を危機にさらしているわけだ。最近増え始めた、クジラの岸辺への打ち上げも、人間によるソナーの使用が原因ではないかという指摘もある
[BBC NEWS : Sonar
'may cause whale deaths' ] 。
人間は、たんに物質的なエントロピーを増大させるだけではなく、情報エントロピーをも増大させることによって、他の生物に害を与えている。人間が夜間に出す過剰な光は、間違った信号として、動植物の生態を撹乱し、光害と呼ばれているが、これも情報エントロピーの増大としての汚染と位置づけることができる。
COSMOSのDVDと本
書名 Cosmos 媒体 ペーパーバック 著者 Carl Sagan 出版社と出版時期 Abacus, 1983/08/11
『コスモス』は、アメリカの天文学者、カール・セーガンが監修し、自らナビゲータとして進行を担当した、宇宙と生命をテーマとする、全13回のドキュメンタリー科学番組である。日本で初めてテレビ放送されたのは、1980年のことであるが、2000年に7枚組みのDVDが発売されたので、それを見て思いついたことを7回にわたって書いてみたい。
12. ヒエログリフの解読
ジャン=フランソワ・シャンポリオンは、ロゼッタ・ストーンを手掛かりに、ヒエログリフを解読したエジプト学の父である。シャンポリオンは、12歳のとき、ジョゼフ・フーリエの部屋でロゼッタ・ストーンの碑文を目にし、そこで使われている三種の文字のうち、ヒエログリフはまだ解読されていないと言われ、将来、自分が解読しようと決意したと伝えられている。
ジョゼフ・フーリエは、フーリエ解析で有名な数学者・物理学者だが、ナポレオンがエジプトへ遠征した時、文化使節団の一員として、ナポレオンに随行した。フーリエは、ナポレオンが新設したエジプト学士院の書記としてエジプトの研究に従事し、『エジプト誌』の監修を務めた。
シャンポリオンとともに、ヒエログリフ解読の業績を争ったのは、イギリスの著名な科学者、トーマス・ヤングであった。古代エジプト研究に、フーリエやヤングのような自然科学者が携わったということは、現代の感覚からすれば奇妙に聞こえるが、この当時は、今ほど専門分化が進んでいなかったし、また、古代文明の理解には、科学的な能力が必要である。
現代の、専門分化が進んだ学界では、古文書の研究は、主として、数学や自然科学とは無縁の文学研究者によってなされている。しかし、現代では、テクストの電子化が進み、統計学的解析が可能となっており、計量文体学ないし、計量文献学と呼ばれる数学的アプローチによる文学研究が、画期的な知見をもたらしている。これまで、日本の大学の文学部文学科は、文系の牙城と目され、入学試験に数学が課されなかったが、これからは、文学研究を志す人も、数学を勉強しなければいけない。
13. なぜ核戦争の脅威は減ったのか
全面核戦争により人類が滅亡するシナリオが最も現実に近づいたのは、1962年のキューバ危機の時である。当時、米国は、ソ連との全面戦争に備えて、国内の核弾頭搭載の弾道ミサイルを発射準備態勢に置き、ソ連も国内の大陸間弾道弾やキューバの中距離弾道ミサイルを発射準備態勢に置いた。もし全面核戦争ということになれば、直接的な影響により、米国、ソ連、ヨーロッパで、多数の死者が出るのみならず、核の冬などの間接的な影響により、中立国でも、大量の死者が出たに違いない。人類の滅亡も決して杞憂ではなかった。
現在、イランや北朝鮮の核開発が焦点となっているが、仮に米国がこれらの国々と核戦争を行ったとしても、人類が滅亡することはないだろう。キューバ危機の時よりも兵器の性能がよくなっているにもかかわらず、核戦争による人類滅亡の可能性が小さくなったのは、戦争の性格が変わってきたからだ。かつては、植民地の利権をめぐって先進国どうしが戦争をしたが、今では、米国、EU、日本といった先進国どうしが戦争をするということは考えられなくなってきた。冷戦崩壊後起きている戦争は、先進国による途上国への制裁か途上国どうしの紛争で、強者同士の覇権争いというよりも、弱者による強者への謀反という性格を帯びている。
COSMOSのDVDと本
書名 Cosmos 媒体 ペーパーバック 著者 Carl Sagan 出版社と出版時期 Abacus, 1983/08/11
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